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テープおこしにおける「ですます体」と「である体」

更新日:6月5日

テープおこしのプリンシプル8


文体の問題

「テープおこし」に少しでも関わっていると次第に気になってくるのが<文体>の問題です。発話を文字として再現する場合、文体は一般的に大きく分けて「ですます体」か「である体」の二種類に振り分けられるとされています。実際、私たちもお客様のリクエストに応えてどちらかの文体を採用して文字化しています。


「ですます体」と「である体」のうち、圧倒的に多いのが「ですます体」です。なぜならば、講演であれ、インタビューであれ、会議であれ、少しでもオフィシャルな性格のある会合では、「ですます体」で語られているからです。わざわざリクエストを受けない限りは「である体」ではなく、「ですます体」で発言を再現しています。

「ですます体」と「である体」の機能の違い

学校の国語の授業では、「ですます体」は敬体、「である体」は常体だと教えられます。


「です」「ます」の助動詞は、文法的には尊敬の機能があるとされ、その中でも敬語とは相違する丁寧語のグループに入れられています。「です」と「ます」はやや用法は相違しますが、いずれにせよ相手に対する何らかの敬意が込められて利用される言葉です。


対して「である」は、文法的には断定の助動詞「だ」の連用形「で」に補助動詞といわれる「ある」が付いて成り立ち、断定の機能がともなわれます。断定の助動詞の「だ」も独自に利用されるため、併せて「だ・である体」と表現されることもあります。


「である体」については、「である」と名付けられている割にはすべてのセンテンスが「だ」や「である」で結ばれるわけではなく、動詞の過去形、もしくは終止形で結ばれる文末も多いのが実際のところです。文末にこだわらず、常体の文体ということで、実際には普通の新聞記事の文体といって差し支えないと思います。「である体」では、話題に挙げられている人や読み手に対する敬意が省かれ、フラットに事実が報告されたり、もしくは主張が伝えられたりすることになります。※1

「である体」の傾向と対策

「である体」の文体をご用命いただく場合、何点かご注意いただきたいことがあります。「ですます体」での発言を「である体」に変更すると、①その発言に込められた敬意は削ぎ落とされ、②柔らかい会話体の発言は簡潔で硬い報告文体に変更されてしまうためです。

1)挨拶的な発言について

挨拶などの目前の聴衆に向かってのみ話される言葉は、実際にはほぼ全てのケースで「ですます体」もしくは「ございます体」であるため、特に以下のように敬意と切り離しにくい発言、またその場限りの聴衆向け発言は、機械的に「である」に置き換えると奇妙な文章になってしまいます。


「おはようございます。今日は朝早い時間にもかかわらず、ご参集いただきましてありがとうございます。当会の山田でございます。」


(である体への言い換え例1)「おはよう。今日は朝早い時間にもかかわらず、ご参集いただきありがとう。当会の山田だ。」


せっかくの丁寧なご挨拶が逆に居丈高な印象さえ与える奇妙な文章になってしまいました。


言い換え例2=アドレス的な処理としては、以下の方式が考えられます。


1)「おはようございます」→「おはよう」ではなく、省略。

2)「ありがとうございます」→「ありがとう」ではなく、「感謝申し上げる」に言い換え、もしくは省略。

3)「山田でございます」→「山田だ」ではなく、省略。


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※もともと「である体」という報告用の文体を利用するのならば、上記1)と3)などの目の前の聴衆向けの発言は、報告文に影響を与えるものでもありませんので省略するという選択もあります。特に3)の名乗りについては、テープおこしでは発言者名も毎回記しますので、実質的に情報としての重要性はないため、省略しても差し支えなさそうです。


※その場限りの発言としては、他では例えば、「次のスライド(の上映)をお願いします」という発言もその類いとなります。この発言も省略してもよいのではないでしょうか。

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2)本論での違和感


「である体」は簡潔な報告文体であるため、「ですます体」の発言語尾だけを「である」と置換すると、文章的な不完全性・省略が目立つようになります。


石川県の県の花はクロユリですし、東京はソメイヨシノです。


(である体への換言例1)石川県の県の花はクロユリであり、東京はソメイヨシノだ


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※よく言われる「私はコーヒー(I am coffee.)」的な省略文となり、そこだけを読むと違和感の残るフレーズになっています。例文はまだ元の意味が想像しやすい例ですが、「日本は原発だ」「東京はCO2だ」となると、文体がもともと簡潔であるがために、いよいよ不自然な印象が強くなってきます。

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アドレス的な処理としては、たとえば、以下のようです。

(である体への換言例2)石川県の県の花はクロユリであり、東京はソメイヨシノが都の花だ


3)インタビューや質疑応答などのやり取りについて

「である体」への文体変更に際して、一番問題になるのが、質疑応答や意見交換のシーンです。もともと込められていた敬意が「である体」ではまったく削り落とされて質問は詰問調になり、回答もぶっきらぼうになります。また、質問者も回答者も準備もなく急に発言することになるため言葉が断片的になりがちで、初めて読むと滑稽な感じすらすることもしばしばです。


A:石川県の県の花はクロユリですが、東京の都の花は何でしょうか。


B:東京はイチョウだったかな。


C:いいえ、違います。東京はソメイヨシノです。イチョウは都の木となります。


A:そうですか。ソメイヨシノも木ですが、その桜の花を指しているのですね。


C:そのとおりです。ですから、東京はソメイヨシノなのです。


(である体への換言例)


A:石川県の県の花はクロユリだが、東京の都の花は何か。


B:東京はイチョウだったか。


C:違う。東京はソメイヨシノだ。イチョウは都の木となる。


A:そうか。ソメイヨシノも木だが、その桜の花を指しているのか。


C:そのとおりだ。だから、東京はソメイヨシノなのだ。

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これだけの短い遣り取りも読みようによっては、お互いぶっきらぼうで喧嘩腰の態度になっているように読めないでしょうか。これが延々と続くと和やかな座談も些細なことで言い争っているかのようです。


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ご発注に際して

「である体」でご用命いただく際には、上述の「である体」の性格、すなわち①敬意が省略されることと、②文章的な不完全性・省略が目立ちがちになることをご了承ください。


その上でのご発注いただけるようでしたら、お勧めは次の二つの方式(パタン)です。


1)敢えてそのままで「ある体」仕様で発注する。

上でいろいろ「である体」化についての難点を挙げていますが、実際のところ、機械的に「である」に置換した文体での仕上げをご用命いただくケースも少なくありません。これは、敬意が省略されて奇妙な文章になっていたり、省略が多くて読みにくい文章になったりしても、お客様が報告書を作成する素材としては取り敢えず十分との判断でご用命いただいているものです。もちろんこうしたリクエストもお受けしますので、ぜひご用命ください。


2)「である体」仕様をご用命いただく際に、その場限りの発言の割愛や、省略された言葉の補足などの文章の整理も一緒にリクエストいただく。

この方式ならば、挨拶部分などの発言は割愛するなどして読みやすい文章に整理してお届けします。


※ただし、この方式でも質疑応答・意見交換の部分については、敬意なき応酬になるしかありませんので、この点はご注意ください。代替案として報告・講演は「である体」でまとめ、質疑応答部分だけ「ですます体」で再現するという選択もあります。ただし、この方式では、報告部分と質疑応答部分の文体が相違するため、この二つの部分の文体ギャップが発生します。一文章に二文体が同居することになるわけですが、小見出しを付けたり、レイアウトを変えてみたりとギャップが気になりにくいように処理してみてはいかがでしょうか。


※1 断定の助動詞「だ」は、「ね」「よ」などの補助語を伴って会話にも利用されます(「~だよ」「~だね」)。補助語を伴うことによって断定的な意味合いが薄められて報告調ではなくなり、簡潔・率直で親しみが込められた表現になっています。硬く主張が強いため相手との距離を感じる「だ・である体」は、補助語が付加されるだけで「ですます体」よりもぐっと親近度が増す、という面白い現象です。



※本記事は2016年8月に弊社ブログで発表された記事を「テープおこしのプリンシプル」シリーズに編入再掲したものです。












シリーズ「テープおこしのプリンシプル」では、テープおこしの専門業者の立場からテープおこしの実体についてご紹介します。

*プリンシプル(principle):原理、原則、行動指針の意。


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