医学・薬学の会議は、内容の専門性が高いため他分野と比べてテープおこしが大変な分野であることはまず間違いないでしょう。この分野のテープおこしを敬遠する同業者も少なくないはずです。
ただし、そんな医学・薬学系のテープおこしでも、私たちにとって苦労ばかりで良いことが全然ないというわけではありません。というのは、医学系の報告では必ずと言っていいほど報告用の資料がしっかり準備されているからです。
医学の世界ではエビデンス、つまり、明らかなこと、証拠、根拠に基づいて議論されることが他分野よりも強く意識されており、報告の際には実験結果の蓄積や統計処理の結果、言ってみれば「データ」資料が重要視されます。エビデンスがないならば、個人的な希望や空想の域を出ないのでお話にならない、というわけです。お昼休みに行われるランチョンセミナーの30分間にすぎない報告に、データをぎっしり詰めたスライド資料が50枚以上にわたって上映されることも珍しくありません。
このエビデンスのかたまりである資料が、医学・薬学のテープおこしにとって大変重要なものになります。
その理由の一つは、専門的で難解な報告を理解するのに資料が役に立つためです。これはこれで資料が重要なことの理由ですが、今回のテーマとなるのはもう一つの理由からです。
すなわち、もう一つの理由は、実は、報告者の話しぶりがよくないケースにおいて資料がその価値を発揮するためです。
ドクターだからといって皆さんお話が毎回上手というわけではありません。殊に上のような30分間で50枚のスライドを説明する場合などは、早口になって、「てにおは」などの助詞も言い間違えたりするのは軽い方で、主語と述語が組み合わなかったり、「つまり」と言いながら別段何の説明になっていなかったり、「一番大事なことは」という発言を受ける内容が結局二つくらい先のセンテンスだったり・・・、と不具合はいろいろです。人間が話すことですので、医学・薬学に限らずどんな分野の場合でも文法上の不整合や言い間違いや舌足らずの表現などは、多かれ少なかれ必ずと言っていいほどあります。
アドレスのテープおこしでは、発言を話されたままに文字化するのではなく、内容に変更を加えない範囲で、つまり文章の意味を変えない範囲で発言を修正して読みやすい文章にすることを特長としています。これを私たちは「整文」と呼んでいますが、「発言を修正する」というのがポイントです。文字おこしは発言を文字にするわけですから、当たり前のことですが、一番の根拠は発言そのものです。それでは、一番の根拠である発言を修正する際には何を根拠にしたらよいのでしょうか?
たとえば、ちょっとした主語と述語の不整合や助詞の間違いならば、日本語の文法を根拠に修正することは可能です。ただし、間違いが重なってきたり、内容にかかわる言い間違いならば、文法を根拠にするだけでは手に負えません。
そこで発言を修正する根拠となるのが、お預かりする資料です。医学・薬学分野では、言い間違えていても、舌足らずの説明であっても、利用される豊富な報告資料に目を通せば報告者の言おうとしていたことが分かることが少なくありません。もちろん資料を読み解くのにはそれなりの知識とコツと時間が必要ですが、資料を読み込んで発言の趣旨を理解するならば、正しく発言を修正できるわけです。私たちも根拠をもって修正でき、あれこれ迷うことがないので助けられています。これは医学・薬学分野のテープおこしの特徴だと言えるでしょう。
きっとドクターはお気づきでないでしょうが、医学的な報告がエビデンスに基づいて行われているとき、実は私たちもそのエビデンスに基づいて発言を修正しながら文字化しているのです。
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